一.
地上には夜があり、宙にはヒカリがあった。
その夜の中、ひとりの少年と、ふたりの少女が出会った。
少女のひとりは、宙の明るいヒカリを指さした。
そのヒカリは彼女を呼び、彼女はそれに応えて、空へと駆けあがった。
そして振り返り、少年と、もうひとりの少女の手を取った。
少年は、おおいぬの星を宿した。
もうひとりの少女は、こいぬの星を宿した。
ふたりはヒカリの少女に導かれ、まだ名もなき宙へと足を踏み入れた。
こうして、三人の旅は始まった。
二.
三人は、長い宙の旅に出た。
宙にはまだ、定まった道も、大きな川もなかった。
三人は旅の途中、たくさんの動物たちや、名もなき者たちと出会った。
彼らは、三人に物語を語った。
それは、うれしいも、かなしいも、大好きも、すべてを詰め込んだ物語。
三人は彼らの物語を聞いた。
そして、忘れないことを誓った。
すると、物語は星となった。
三.
ある時、三人は硝子の町へ至った。
そこでも三人は、たくさんの星々を集めた。
三人は星々を抱えて笑い、夢を語り、もっともっと遠くへ行こうと誓った。
しかし、その町でヒカリの少女は、ふいに姿を消した。
硝子の町は、心にある願いをよく映す町であった。
ヒカリの少女の願いは、三人の中で、もっとも遠いところを見ていた。
そのため町は、彼女の姿を、遥か彼方へ映してしまったのだった。
残されたおおいぬの少年と、こいぬの少女は、彼女を探して歩いた。
だが、気がつけばふたりは宙を離れ、地上へ降りていた。
そこには深い夜が広がっていた。
宙は遠く、ヒカリは見えず、ヒカリの少女の声も届かなかった。
四.
地上の夜をさまよううちに、おおいぬの少年とこいぬの少女もまた、互いを見失った。
少年はひとりで歩いた。
しかし、どこへ向かえばよいのか分からなかった。
宙へ戻る道も、ヒカリの少女のいる方角も、こいぬの少女の声も、すべて夜に隠されていた。
やがて少年は疲れ、目をつむり、その場に立ち止まってしまった。
五.
少年がふたたび目を開いた時、夜の奥に小さなヒカリが見えた。
少年がそのヒカリへ手を伸ばすと、宙から、ひとつの手が差し伸べられた。
その手は少年の腕をつかみ、夜の底から引き上げた。
手の主は、別れたはずのヒカリの少女だった。
引き上げられた先の宙には、こいぬの少女もいた。
三人は、ふたたびめぐり会った。
六.
三人はふたたび宙を旅した。
三人は、どこまでも続く宙の道を手を繋いで歩いていった。
しかし、ヒカリの少女には、宙の上へ向かわなければならない時が近づいていた。
ヒカリとは、やがて宙の上へと昇っていくもの。
そこは、おおいぬの少年も、こいぬの少女も、まだすぐには行くことのできない場所だった。
三人は離れまいとして手をつないだ。
しかし、ひととき、ふたりの手から、ヒカリの少女の手がほどけた。
その瞬間、おおいぬの少年とこいぬの少女は、ふたたび地上へ落ちていった。
地上は、以前よりも深い夜に包まれていた。
ふたりがどれほど手を伸ばしても、ヒカリの少女の姿は見えなかった。
こうして、ヒカリの少女は、ふたりと別れた。
七.
やがて、ヒカリの少女のもとへ、宙の上へ向かう列車がやって来た。
しかし、ヒカリの少女は乗らなかった。
すると、ヤミがヒカリの少女ごと宙を覆いはじめた。
世界は暗くなり、光を忘れようとしていた。
それを見たヒカリの少女は、かつて三人で旅をして集めた星々を宙に放った。
すると、ヤミの中にヒカリが灯った。
ヒカリはヒカリを結び、やがて宙いっぱいに天の川が流れた。
八.
地上に落ちたおおいぬの少年とこいぬの少女は、なおも夜を歩いていた。
ある日、ふたりは高い山に登った。
息を切らし、傷つきながら、それでも登った。
やがて頂上へと至った時、ふたりは振り返った。
すると、宙からヒカリが漏れ出し、地上を覆っていた夜が晴れていった。
そのヒカリは、ヒカリの少女が宙で灯したものだった。
それは、かつて旅で見た星々のヒカリだった。
おおいぬの少年は、そのヒカリを見上げて、かつて三人で歩いた硝子の町を思い出していた。
少年は、その町の名前からとり、光満ちる宙を「オルタラヴ」と名付けた。
九.
おおいぬの少年とこいぬの少女は、ヒカリが照らす地上を再び歩き始めた。
それは、宙へと至るための、星合への旅。
それは、ヒカリの少女と再び巡り合うための旅。
三人で一緒に、宙の上へ向かう列車に乗るための旅。
そして、その列車の中で、それまでの旅の話を、たくさん、たくさんするための旅。
宙にはヒカリの少女が灯した星々があり、そのヒカリは今も、ふたりの行く道を照らしている。
かくして、宙にオルタラヴは生まれた。
それは、地上の上、三次世界の空にひらかれた世界。
誰もがいつか至る場所へと続く、道の途中にある世界。
オルタラヴは、今も星のヒカリで満ちた世界である。